クローン自殺の夢

2011 年 4 月 7 日、午前 6 時頃——

豫行演習

この夢で、私は自分自身のクローンを同時に一體まで生成する方法を知ってゐた。クローンの存在する間、私はそのクローンとなり、普段と同じように行動する事ができる。クローンからは幽体離脱のようにして精神だけが抜け出す事が可能であり、精神を失った肉體は 15 分程度ならば問題なく生存してゐるが、ある限度を越えて肉體を離れてゐると、やがて肉體は死亡する。それを避けるためには時間切れとなる前に肉體に戻らなければならない。肉體が死亡すると分離してゐる精神の方も徐々に意識が無くなって行き、やがて眠るようにして消滅する。このやうな行爲を私は二度ばかり繰り返して自殺の豫行演習を行った。何の恐怖も無い。これならば本番も大丈夫だらうと思った。

本番

クローンではない本來の體で、私は喫茶店のやうな場所へ行く。廣くて、客が疎らで、とても靜かで良い喫茶店だ。私は時間を掛けて一杯のコーヒーを飮むと、自らの肉體から抜け出した。この時はまだ恐怖は無かった。それよりも生命を終はらせる事の方が遥かに重要だった。抜け殻となった肉體はただ喫茶店の椅子に腰掛けて眠ってゐるやうに見えた。私は店を出て、當ても無く街を歩き始めた。

そろそろ 10 分經った頃だらう。このまま喫茶店へ戻って肉體を取り戻さなければ、私はまもなく死亡する。その時になって、私は急に死ぬ事が恐しくなって來た。死ぬというのがどんな感じなのかは二度の豫行演習で既に知ってゐる。しかしこれは演習ではなく、今度は完全に消滅するのだ。私にはまだやり殘した音樂がある。學び殘した數學がある。讀み殘した本がある。駄目だ、まだ死ぬわけには行かない。急いで喫茶店へ戻らなくては。

恐怖による中止

喫茶店への道は非常に混雑してゐた。焦ってゐるのに人混みに邪魔されてなかなか前に進めない。早く戻らなければ死んでしまふと云ふのに、人混みに邪魔されて進めない。途中で大通りの横断歩道に差し掛かると、その信號機はいつまで經っても青にならない。信號を無視して道を渡らうにも車は右から左から猛スピードで切れ目なく通り續ける。もう本當に時間が無いのだ。これは間に合はないかも知れないな…と思ひながらも、どうにか私は喫茶店に辿り着いた。タイムリミットは、まだ過ぎてゐなかった。